VOICE
まずは「機能性」についてふれたいと思います。国内外の動物病院を見てきました。
が、なかでも良いなと思ったのはアメリカのある大学病院でした。そこでは、待合室から診察室、そして処置室といった配置や動線が、合理的かつ機能的であるよう考え抜かれていました。 日本の縦長の土地事情にも合っていて、とても参考になるものでした。
そのように数多くの動物病院を見学してきた蓄積を活かし、私なりに構想を練り上げ、「いかに機能的であるか」を突き詰めていきました。
結果として、非常に使いやすく、見通しの効く空間が院内全体に広がっていると思います。具体的な配置や雰囲気は平面図と写真をご覧ください。以前の病院から比べいまの病院は約2倍の広さとなりましたが、スペース的な余裕が生まれたことで、整然と整理された病院になったと思っています
次に「バリアフリー」についてですが、当院には盲導犬を連れてくる方やお年寄りも多数いらっしゃいます。2階部分を診療区域とするためには、必然的にエレベーターを設置しなければなりませんでした。そこでどうせならと、すべての段差をなくし、点字案内を設置するなど、誰にとっても動きやすく快適な、不自由さのない空間であることを志向しました。
維持費だけを考えればエレベーターの設置には消極的になるかもしれませんし、待合を含めた病院機能が2階にあるということに対しても慎重な意見があるでしょう。
しかし当院の場合では、雨の日でも屋根がある1階に車を停めて濡れることなく建物に入ることができる、といったことがかえって好評で、天候によって来院数が変動するといったことがなくなりました。目先のコストにとらわれず、利便性を追求したことが正解だったなと思っています。
その他、動物病院にとって大切なニオイ対策など、紹介したいポイントがたくさんあるのですが、文字数の関係上、割愛いたします。
MESSAGE
渡辺獣医科病院は名古屋駅の北、幹線道路に面した都市中心部の病院です。いままでの動物病院が手狭になり、渡辺院長の理想を掲げた病院を建設したいとの想いを現実にするために設計を始めました。
院長の要望は明快で、多岐にわたりました。
①1階に10台分の駐車場、ワンちゃんのためのおしっこポールを備えたトイレ。
②1階エントランスには目が不自由な方のために視覚障害者用タイル、車椅子のクライアントのためにスロープとエントランスから2階の待合室に入ることが出来るエレベーター。
③1階に職員専用の出入口、病院内から行くことのできる隔離室が必要。
④2階には広い待合室とカウンセリングルームがあること。
⑤診察室から処置室やレントゲンなどクライアントが動物と一緒に病院内を次の目的の場所に移動できる診察スタイルのとれる動線。 ⑥診察室が3室と専用のアースを取り、筋電計などの精密機器が配置してある特殊診察室が1室、処置室には4台の処置台があり無影灯などそれぞれの目的に応じた機器が設置できること。
⑦ヘパフィルターがあり与圧された第1手術室には手術台が2台、第2手術室には、歯科治療用手術台のほかジェットバスがついた薬浴の浴槽と金属加工の出来る作業台を設置し、それぞれ大きな窓を設けクライアントがいつでも手術に立ち会うことの出来るようにすること。
⑧入院室(Wet)約30のケージと大型犬用のパドックが3ヶ所、隣に屋内ドッグラン(Wet)、ジャブジャブ洗えて、塩素に強い床と壁材、隣の家(外壁から50センチ)に音が漏れないこと。
⑨屋内で全て洗濯から乾燥、消毒まで出来るリネン室
⑩獣医師用の医局、各所からLANを通じてモニターを見ることの出来るしくみ。
⑪3階に獣医師のための勉強会ができるセミナールーム、院長室、数千冊ともいえる膨大な書籍を収める図書室、AHTのための休憩室と自宅を配置すること。
渡辺院長の多くの要望を一つ一つ詰めて、毎回午後10時から午前3時まで打合せ時間を戴き、積み木を積み上げていくように設計を進めていきました。多くの要素を効率の良い動線でまとめ、獣医師の動きを最小にするために1フロアーに診療区域をまとめる必要がありました。そのため2階の1フロアーで約100坪の大型病院になっています。
人間の診療所や病院では考えられない、臭いや音の問題の解決、屋内空調機排水の毛詰まりの問題解決、適切な壁や床素材の選択、(例えばクライアント用の屋内階段は3階からジャブジャブ水を流して洗うことが出来ます)、検便の臭いのこもらない検査室、薬局の家具の設計、蛇口をひねると病院内どこでもすぐにお湯が出る死に水の少ない配管設計、1階、2階の各所に設けたカメラシステム、全館に設けられたセキュリティシステムやエレベーターコントロールの仕組みなど多くのこだわりが実を結びました。
また、名古屋市福祉環境基準適合証を取得し、人に優しいバリアフリーの動物病院として竣工しました。